Well-being有識者インタビューVol.10

国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)には多くの企業が賛同し、これに対応しようという取り組みが盛んになっている。そのSDGsに続くグローバルアジェンダとして注目される概念が、実感としての豊さ(ウェルビーイング)になる。慶應義塾大学医学部教授としてヘルスケアの領域から新しい社会を考え、データサイエンスや大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーなど、様々な方面で活躍している宮田裕章氏に、多様なウェルビーイング実現のための考え方やデータ活用の仕方について話を聞いた。

写真:宮田 裕章氏

慶應義塾大学 医学部医療政策・管理学教室 教授 宮田裕章 氏

専門はヘルスデータサイエンス、医療の質、医療政策。2015年5月より現職。2025年日本国際博覧会テーマ事業プロデューサー。飛騨高山大学(仮称)学長候補。

多様な豊さとは?データで可視化し共有

ウェルビーイングに注目するようになったのは、社会と関わりはじめたころ、社会貢献について考えたことがきっかけでした。これからはおカネだけではなく、人々が大切にする様々な価値の中で社会が回る時代になる。環境や教育、自由、人権、そして経済的合理性なども含めた中で、人がよりよく生きる、ウェルビーイングであることは重要な概念になる。そこでヘルスケア領域を軸にした実践の中で、新しい未来を考えたいと思いました。ウェルビーイングが多義的であり、多様性を含んでいることはとても重要です。平均的な幸福だけを追求する時代ではなくなった今は、多様性を認めながら新しい社会を目指していくことが大事になります。ウェルビーイングな社会を実現するために、GDW(国内総充実)のような大きな物差しと、個人に寄り添うための小さな物差しの両方を用いることが重要です。例えば終末期を迎えた患者さんに寄りそうためのウェルビーングも、大切なアプローチです。経済的ゆとりや健康、家族といった共通する価値観だけでなく、多様な豊かさを共につくることも重要になります。

今は、環境や人権、健康など、あらゆる面で世界中がつながるようになりました。例えば食べること一つ考えても、美味しさ、栄養補給、地産地消、フードロスなど様々な側面で世界とつながっています。このような世界では独りよがりのウェルビーイングは通用しません。私はサステナビリティとウェルビーイングを合わせた概念を「Better Co-being」と名付け、社会とつながる中でお互いに豊かになることが重要と捉えています。

この数十年ほど、株主至上主義の中で企業は短期利益の追求が求められてきましたが市場や投資家の評価が変わり始めています。経済だけでなく、様々な要因で世界のつながりが見えたことで、持続可能な社会への貢献が強く求められるようになりました。これは古くから言われてきた「三方良し(売り手よし、買い手よし、世間よし)」の理念に通じます。新しい社会では、データの活用により健康、環境、教育など、多くのものが可視化されます。多様な価値軸は、ウェルビーイングを可視化しながら社会を駆動する力になります。また平均値で社会を考える時代からシフトしたこともポイントです。行政も企業も多様性に配慮しながら一人ひとりの幸せを実現することが可能になってきました。例えば日本ではシングルマザーの貧困問題があります。離婚は人生の選択肢でリスクであってはならないはずですが、多くの場合、女性側の負担が重く、非正規雇用の方も多い。もし持病があったら苦しさは掛け算で増えてしまう。従来のサービスだと足し算で、少しの支援しかできなかったことを、データを使えば掛け算で苦しい人たちに寄り添えるかもしれない。例えば乳幼児の体重変化のデータを見ることで、一歩手前でリスクを察知して支援ができるかもしれない。今まで人の経験や勘に頼っていたことを、データ活用によりコストを掛けずに見守ることができる。一人一人に寄り添いながらだれも取り残さないという夢物語が実現可能になってきたと感じています。世界が大きな転換点を迎える中で企業はどうあるべきかを再定義して、一歩進むことが大事です。持続可能な未来における新しい豊さとは何なのか、皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。

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