Well-being有識者インタビューVol.18

国連加盟国のすべてが持続可能な社会を目指すSDGs(持続可能な開発目標)は2030年を期限とした世界規模の目標だ。これは開発途上国の開発のために作られたミレニアム開発目標(MDGs)をベースに193の国連加盟国が交渉を行って策定されたが、合意に至るまでには多くの障壁があったという。議論が始まった2012年に日本の首席交渉官だった外務省の南博氏に、SDGs交渉で苦労した点やSDGsの足りない部分、またウェルビーイングという概念を普及させるために必要なことについて話を聞いた。

写真:南博氏

外務省 駐オランダ大使 南博 氏

東京大学法学部卒業、ケンブリッジ大学経済学修士、83年外務省入省。中国大使館、英国大使館、ジュネーブ代表部、ロシア大使館、国連代表部に勤務。日本政府の首席交渉官としてSDGs交渉を担当後、在東ティモール大使、広報外交担当日本政府代表・大使を経て、現在、駐オランダ大使。

SDGsの先を見据え、世界全体で取り組む

SDGsの交渉時に注力したのは途上国との関係でした。ゴールの中には目標16『平和と公正をすべての人に』が入りましたが、この議論は紛糾しました。平和的社会の概念は持続可能な開発の定義から外れるという理由で途上国側は反対し、先進国側は入れるべきと主張しました。ただし途上国で賛成した国の一つが東ティモールでした。中国やブラジル、インド等が反対する中、小国が声を上げるのは勇気のいることだったと思います。

G77(途上国と中国のグループ)は先進国から資金や技術移転を得るべく主張する傾向があります。しかしG77には日本より一人当たりGDPが高いシンガポールやカタールなども入っています。それをまとめて特別扱いするのはおかしいですし、様々な国の事情にあった差異化が必要だと先進国が主張して、この点は受け入れられました。

SDGsが日本国内で知れ渡った今の状況には驚いています。2015年に採択したときには関心は低かったです。転機は2017年ぐらいでビジネス界が関心を持つようになりました。理由を推測すると、国連の広報戦略の成功、地球環境への関心の高まりが挙げられます。根本的に日本人が環境破壊への恐れを抱いていたこと、アクションが必要だと感じていたところにSDGsがうまくはまったとも言えるでしょう。ただしSDGsは国連から降ってきた天の福音ではなく国際交渉の妥協の産物でもあります。足りない部分は何なのかを見極め、これ以上のものを考えることが必要です。とりわけ気候変動は将来の予測が難しく、科学的知見の深化、世論の動向、国際交渉の進展により目標が深化していくことになるでしょう。またCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の結果、グローバルヘルスに大きな焦点が当たっています。感染症は地球全体の問題で人の健康だけでなく経済や安全保障面でもリスクがあります。さらにSDGsでは科学技術をあまり取り扱っていません。ネット社会では巨大IT企業と国の関係など、新たな課題が出てきています。加えてSDGsには目標10『不平等をなくそう』がありますが、格差は拡大しているのが現実です。国連は2024年に「将来のためのサミット」を開催予定ですが、どの部分に焦点を絞るのかは、真剣に考える必要があると思います。

ウェルビーイングという概念を広めていくには、まずウェルビーイングとはこういうものという共通理解を作ることが大事でしょう。動きを作り、賛同する国が増え、臨界点を超えれば自動的に転がると思います。国連で広めるには地域横断的に取り組む必要があります。アジア、中東、アフリカ、中南米、欧米など、各地域から信頼を得て進めることが大事です。日米やG7中心ではなく、可能な限り政治色を薄める方がいいと思います。

これから先、SDGsが成功するのかはまだわかりません。ウクライナ侵攻が国連に与える影響も大きく、国際社会の分断が今後解消されるかかどうか懸念があります。ただし国際協調を重視する国は多いですから、大きく旗を振る国が出てくれば、それに続く国は多く出てくる可能性があると思っています。

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