Well-being有識者インタビューVol.21

米ギャラップは世論調査会社として発展し、長年、様々な種類の調査を手掛けてきた。また、公益財団法人Well-being for Planet Earth(代表理事:石川善樹氏)とともにGlobal Wellbeing Initiativeを立ち上げ、世界各国でウェルビーイングに関する調査・研究にも取り組んでいる。同社CEO(最高経営責任者)のジョン・クリフトン氏に、企業の業績向上には従業員の主観的ウェルビーイングを高めることが不可欠と考えられるようになった背景について聞いた。また、クリフトン氏は世界各国のウェルビーイング実感の状況や日本の課題に関しても言及した。

写真:ジョン・クリフトン氏

ギャラップCEO ジョン・クリフトン 氏

2008年ギャラップに入社。22年より現職。以前は同社のグローバルマネージングパートナーとして国や企業の政策に助言。ミシガン大学で政治学と歴史の学士号を、ネブラスカ大学で国際法の法務博士の学位を取得。ベイラー大学(テキサス州)宗教研究所非常勤上級フェロー。

ネガティブ感情も聞き取り状況改善を目指すのが責務

20年前、素晴らしい人生とは何かについて考え、国内総生産(GDP)だけでは見えない価値、個人の主観的ウェルビーイングを測る指標を開発したいと思いました。最初は企業や組織にはあまり影響力がないと冷ややかに受け止められましたが、地球上の人々の声を聞き取ることを継続しました。

2010年末にチュニジアの「ジャスミン革命」に端を発したアラブ諸国の民主化運動はエジプトなどにも波及しました。当時のエジプトの経済状況を見ると、1人当たりGDPは右肩上がりで増えていましたが、人々の主観的ウェルビーイングは06年の28%から11年には9%にまで下がっていました。16年にブレグジット(EU離脱)の国民投票があった英国でも、失業率は5%を切り経済は安定していると見られていましたが、当社の調査では国民感情が13~15年にかけて急激に悪化していたのです。行動経済学では人は意思決定の30%を合理的に、70%を感情的に判断すると言われています。多くの人が感情や欲望に左右されながら物事を決断していると言えるでしょう。

ギャラップでは約150カ国で主観的ウェルビーイングの対面聞き取り調査をしています。特に私たちが測定したいと思ったのが、怒り、ストレス、心配、身体の痛み、悲しみといったネガティブな感情です。06年以降、ネガティブな感情を持つ人は増加しているので、この状況改善を目指すことが責務だと感じています。

私たちはこの調査を100年続けるという目標を掲げています。ウェルビーイング研究は西洋だけでなく日本を含む東洋、イスラム圏、アフリカなどグローバルに進めることが重要です。世界には多くの言語があり、文化や幸せに対する考えも違います。世界中で調査を実施し、指標をつくることは容易ではありませんが、既にデータ化して専門家に渡し政策決定に影響を与えるところまで進んでいます。

人が多くの時間を費やす職場のウェルビーイングに関しても調査しています。米国で「会社はあなたの健康やウェルビーイングに配慮しているか」と尋ねたところ、新型コロナウイルスの感染拡大期でも従業員の企業への評価は向上していました。企業が従業員の健康と安全を守る対策を講じてきた成果でしょう。しかし、足元では状況が変わりました。経営側が従業員とのコミュニケーションに消極的になり、健康や安全に配慮する企業が減っています。その結果、従業員は会社を信頼しないと言い出しています。企業が従業員のウェルビーイングに注意を払い、信頼を得ることは非常に大切です。

日本は残念ながら、働く人々の仕事への意欲を意味するエンゲージメントが最も低い国の一つです。12年ごろから5~7%と停滞し大きな改善がみられません。一方、世界的には12%から23%までエンゲージメントが上がっています。いま企業は、従業員のエンゲージメントを改善しようと、経営陣向け研修の活用法などに関心を示しています。ただ、まずはマネジメント層が従業員の声を聞き、従業員にバランス感覚だけを求めずに、個々人の強みに注目しそれを組み合わせてチームの総合力を高める必要があります。

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