Well-being有識者インタビューVol.22

日本でも企業の非財務情報、とりわけ長期的価値形成に対するサステナビリティ(持続可能性)の影響に関して関心が高まっている。そのため、上場企業のサステナビリティに対する配慮や取り組みを測る物差しとして、米S&PグローバルのCSA(コーポレート・サステナビリティ・アセスメント)が急速に普及している。同社の眞々部貴之ディレクターにCSAの概要と役割、調査結果から見える日本企業の現況について話を聞いた。

写真:眞々部貴之氏

S&Pグローバル Sustainable1 ディレクター コーポレートエンゲージメントESG 眞々部貴之 氏

楽天、三菱UFJリサーチ&コンサルティング、知床財団など、様々な立場で10年以上環境・持続可能性に携わった後、2021年より現職。東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻修了。信州大学農学部森林科学科卒。技術士(環境部門、森林部門)。

企業の取り組みを可視化 長期的価値向上に生かす

CSAは1999年に始まったESG(環境・社会・ガバナンス)の評価です。S&Pグローバルは2021年からそのスコアやデータを投資家に公表するようになりました。22年は世界で1万3000社以上、日本では2300社以上が評価対象になっており、ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス(DJSI)の基礎データとしても使われています。

CSAでは毎年、企業のサステナビリティに関わる様々なESG要因を62業種ごとに分析しています。企業の将来の財務パフォーマンス(成長性、収益性、資本効率、リスクプロファイル)に影響を与える約100項目が特定され、業種ごとに異なる設問をつくります。ウェルビーイングや人的資本に関するものは全業種共通です。設問は投資家や企業からのフィードバックに基づいて適宜更新されます。

私はS&Pグローバルに転職する前は、CSAの設問に答える側にいました。日頃は意識していない項目に出くわしたこともありました。ウェルビーイングのような、企業にとって新しいアジェンダが出てきた時には、自社や日本の中だけで考えるのではなく、世界のトレンドを見て比較し自社の立ち位置を把握することが大事だと認識できました。

日本企業はウェルビーイングと人的資本の取り組みにおいて、ここ数年で大きく進歩していると感じています。ウェルビーイングに関する質問を含む「Talent Attraction & retention(人材の確保と定着)」の項目では、日経225銘柄企業の2020年平均スコアは31.1点でしたが、22年には37.6点に上昇しました。「Human Capital Development(人的資本開発)」の平均スコアも32.6点から52.6点へと大きく改善しています。

従業員のウェルビーイング度が向上すれば、離職・欠勤を防ぎイノベーションを起こす確率が上がり、生産性向上、採用コスト削減にもつながります。これらは将来の財務的なパフォーマンスと関連しています。従業員のウェルビーイングはS&Pグローバルが評価する重要な課題の一つになっています。

以前は担当部門が人事関連のデータ公表を渋るケースも多くありました。年間約400の企業とお話をするなかで、最近は企業が人的資本のデータ開示に積極的になってきたと感じています。またESG情報は大企業を中心に開示が充実している状況でしたが、投資家サイドから比較的時価総額の小さい企業のESG情報についてもニーズが高まっています。ESG情報は投資家だけでなく企業自身にも重要です。他の企業と同じ尺度でベンチマークできる利点があります。CSAは設問が多く回答は大変ですが、例えばデータに基づき改善すべきことを明確化することができます。

投資家が投資判断に使っているということは、企業自身が自社の経営戦略ツールとして活用できるということです。多くの企業にESGに取り組む目的を正しく理解していただき、しっかりとサポートしていきたいと思っています。

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