Well-being有識者インタビューVol.26

国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の目標年は2030年。9月18日、19日に開催された「SDGサミット2023」では政治宣言が採択されるなど、目標達成へ向けた動きが加速している。SDGsに続くアジェンダも注目を集め始めており、その中で浮上している概念がウェルビーイングだ。国連が4年に一度まとめる『持続可能な開発に関するグローバル・レポート(GSDR)』の執筆陣15人のうちの1 人である慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の蟹江憲史教授に、SDGsの意義やポストSDGsに向けた議論について聞いた。

写真:蟹江憲史氏

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 教授 蟹江憲史 氏

専門は国際関係論、サステナビリティ学、地球システム・ガバナンス。SDGs研究の第一人者であり、研究と実践の両立を図っている。日本政府SDGs推進本部円卓会議構成員、内閣府地方創生推進事務局自治体SDGs推進評価・調査検討会委員など、多方面で活躍中。

目標設定 世界でシェア GDP超える指標、単純化も

幼少期に海外で暮らしていた時に国際政治に興味を持ち、大学院では気候変動やミドルパワー(中小国)について学び、オランダで数年間、研究生活を送りました。研究を始めた理由の1つは、日本が将来ミドルパワーになると思ったからです。かつて覇権を握っていたオランダやイギリスなどは今でも国際的なステータスを維持しています。人口が減少し、経済力も小さくなる日本では、その道を歩むべきだと思いました。オランダは知の力でリーダーシップをとっています。実験的な試みができたり国際的なネットワークを築いていたりするのも強みです。1国だけでは生存できないという意味では日本も同じ立場になると思います。

日本は環境問題に関しては、90年代後半から2000年にかけて太陽光などを推進し、京都議定書を合意させるなど先陣をきっていました。しかし、その後は温暖化ガス削減などの実効策を先延ばししてしまいました。今はつけが回ってきていると感じます。あの時から取り組んでいたら日本は環境で世界をリードできたと思います。

SDGsの登場で状況は一変しました。民間企業がSDGs に本腰を入れ、メディアも取り上げました。目標を掲げ社会を動かすSDGsの仕組みにはとても興味がありました。先日出したGSDR でも、ゴールはグローバルにシェアしつつ、実装は各国の状況に合った形で取り組むことが大事だという結論は変わりません。すべてに適用可能な答えはないが、すべてに適用可能な目標はある。それをどう実行するかは国や地域のレベルで考えればよい。この仕組みはネットを通じて多様な人とグローバルにつながれる現代に適しています。

経済的豊かさだけではなく生活の質がどの程度向上したかという人々のウェルビーイング度を測る動きが進んでいますが、GDPを超えた指標「Beyond GDP(ビヨンドGDP)」に関しては課題があります。GDPは単純でわかりやすいですが、「Beyond GDP」に関する指標は複雑で多すぎる。例えば環境一つとっても、気候変動、生物多様性などがありますし、たくさん盛り込めばわかりにくくなります。単純化しないと使いやすい指標になりません。統合し単純化して、多くても軸を3つぐらいに落とし込まないと「Beyond GDP」にはならないと思います。

9月の国連の「SDGサミット2023」では政治宣言が採択されました。ここで「今の状況は危機的だから、みんなで目標に向かってたゆまず進もう」という世界のコンセンサスが再確認でき、総意として決まったことは価値があります。岸田文雄首相も国連で「私が(日本の)SDGs推進本部長として、取り組みを力強く牽引している。今年末にはSDGs 推進のための戦略を新しい時代に合わせたものに改訂する」と表明しました。この宣言の行方は注目すべきです。

ポスト2030年のグローバルアジェンダ設定に関しては、遅くとも来年ぐらいから準備を始めないと間に合いません。25年の大阪・関西国際万博のテーマウィークあたりで議論を始め、次のサミットのある27年から3年で決めて30年スタートという感じかなと思っています。