Well-being有識者インタビューVol.27

人々がウェルビーイングであるためには、自ら心地よく感じる体験が重要だ。音楽などのアートも、心地よさを体感する有効な手段の一つだ。日本を代表する音楽プロデューサーの亀田誠治氏は、誰もが自由に気軽に音楽に触れられる無料音楽祭を、毎年6月に日比谷公園エリアで開催している。音楽を通してウェルビーイングな社会を実現したいという亀田氏の思いを聞いた。

写真:亀田誠治氏

音楽プロデューサー・ベーシスト 亀田誠治 氏

音楽プロデューサー、ベーシスト。椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAYなど多くのアーティストのプロデュース、アレンジを手がける。ジャンルや世代を超え音楽体験ができるフリーイベント「日比谷音楽祭」の実行委員長を務める。今年は6月8、9日開催。1964年ニューヨーク生まれ。59歳。

入場無料の野外音楽祭で親子孫つなぐウェルビーイング

無料の野外音楽イベント「日比谷音楽祭」は2019年に始まりました。2010年代から、コンサート会場でエンディング曲が終わる前にグッズ売り場に人々が殺到したりするのを見るようになり、音楽の在り方に少し違和感を覚え始めました。もう一度、原点に戻ってみたいと思うようになりました。海外で複数のアーティストによる楽曲共作にトライしたいという希望や、自分が生まれたニューヨークを訪れ原点回帰したいという思いなどが重なり米国に足が向きました。それ以来、毎年一度、米国を訪れるようになったのですが、ある時、ニューヨークのセントラルパークで無料の野外音楽イベント「サマーステージ」に遭遇しました。音楽で幸せを感じるために、大勢の人が思い思いにウェルビーイングな時間の使い方をしている。こんな光景を日本でも実現したいと思っていた時、絶妙なタイミングで「日比谷公園120周年、日比谷野外音楽堂100周年に向けた音楽イベントをプロデュースしてくれないか」とお声掛けいただきました。そして、「日比谷で無料の音楽祭を開催する」という私の目標が定まりました。

私は当初から、老若男女の垣根なく音楽を体験してもらうため無料にこだわりました。ご来場いただければ、ポップスからクラシック、演歌など様々な音楽に触れることができ、出演アーティストもトップスターから若手まで多彩です。企画過程で「前例がないし運営費が賄えないでしょう」と言われたこともありましたが、「ニューヨークでできてなぜ東京でできないのか。じゃあ僕がやってやる」とスイッチが入りました。今、日比谷音楽祭は私のライフワークになっていて、継続することでより良い社会やより良い生き方につながるはずと信じて、僕が今まで出会った全ての経験や人脈、つまり“全亀田”を投入しています。23年は3日間で約15 万人の来場者と約57 万のオンライン視聴がありました。

運営費を確保するため、17年頃から200社ぐらいの企業を自ら回ってスポンサー探しをしました。大学卒業後にすぐ音楽の道に入ったため、スーツを着たこともなかったのですが、この時に新調しました。最初はネクタイの結び方もわかりませんでした。ありがたいことに、今は趣旨に賛同してくださった企業の協賛もいただき、人々の善意をしっかり循環させるという意味でクラウドファンディングもやっています。

音楽祭は無料ですが、長い目で見て音楽業界の活性化に寄与できればいいとも思っています。日比谷音楽祭で音楽に触れたことがきっかけで、「配信サービスの有料会員になってみよう」といった消費行動につながればありがたいです。若いアーティストのライブを観た人が「次は有料ライブに行ってみよう」と思っていただければ、アーティストにとっては励みになります。

日比谷音楽祭のキーワードは「親子孫3世代」です。50年間以上受け継がれるものが本当の文化になると思います。あらゆる世代が違いを受け入れることはウェルビーイングな社会につながりますし、音楽には人を元気づけたり感動させたりする力があり、響き合うことで気持ちよくもなれる。音楽の存在そのものがウェルビーイングでもあります。