Well-being有識者インタビューVol.2

第2回のインタビューは、ウェルビーイングイニチアチブの円卓会議で副議長を務める篠田真貴子氏。経営コンサルティングの専門家として、これからの企業の存続は「利益とウェルビーイングの好循環を築けるか」がカギになると指摘する。

篠田真貴子 氏

マッキンゼー・アンド ・カンパニーにて経営コンサルティングに従事。その後ノバルティス及びネスレにて、事業部の事業計画や予算の策定・執行、内部管理体制構築、M&Aに関係するPMIをリード。2008年ほぼ日入社、取締役CFO管理部長として同社の上場に貢献。2020年3月エール取締役就任。

主観的幸福見つめ直し計測を可能に

経済史を振り返ると、1930年代にGDPという指標が生まれる以前から、企業の経済活動は始まっていました。「人々の生活水準を上げる」「生活の安全性を高める」といった社会にプラスになる活動は、消費者による商品の購入や、資本家による投資という形で支持され、逆に社会にとってマイナスになる活動は支持を得られないので消滅する…ということを繰り返しながら、資本主義社会は発展してきました。

つまり、「企業が社会に還元するものは、お金や物質的な豊かさだけでない」という観点は、GDPなどの経済指標よりも古くからあったのです。そして、その原点ともいえる価値観に切迫感を持って立ち返るレベルにまで、現代社会は成熟してきています。おカネに関する指標は、客観性が担保されていて、様々な国や企業を横並びで比較するのが簡単だったために多用されてきましたが、それによって欠落していた「おカネ以外の価値の重要性」に社会が気づきつつあるのです。

そこで、今回のプロジェクトが主目的とするウェルビーイングの新指標「GDW」は、「人々が主観的に幸せを感じられる社会になっているのか」「この事業は人々の幸福感に貢献できているのか」を確認していきます。つまり、もともと重要ではあったが忘れられがちだった主観的幸福を再度見つめ直し、計測可能なものにする取り組みなのです。

これはまだ理解が広まっていない点ですが、事業戦略とウェルビーイングを考える際には、企業が財務的な利益を出すことが前提であり、利益とウェルビーイングを好循環させる構造を作ることがウェルビーイングの事業戦略の根幹になります。利益と社会活動の二者択一ではなく、双方が高め合うことが重要であり、未来社会ではそれが企業存続の必要条件になってくると考えています。

50年前だとまだ、事業が地球環境に良くない影響を及ぼしても、企業は責められにくかった。そうして利益優先の経営を進めた結果、様々な副作用を引き起こした例がありました。また、20年前から現在に続く「株主至上主義」の時代は、自社の社員や立場の弱い取引先は不利益を被りやすいなど、ステークホルダーの中でも価値の分配に優先順位が付いているのが当たり前でした。

しかし、時代が進むにつれ、そうした状況は変わりつつあります。企業活動による環境への悪影響については、これを是正するために法が整備され社会の意識も変わり、いまや環境への影響をまったく無視して経済活動をしている企業はないといっていいでしょう。

消費者や投資家も高評価おカネ以外の価値を人々に

そして、「企業は全てのステークホルダーに対し、金銭以外にも様々な価値をもたらす必要がある」ということに自覚的な経営者も増えています。これからの時代は、ウェルビーイング経営が出来ている企業は、働きやすさによって労働市場で評価されたり、それ自体社会によい影響をもたらすものとして消費者や投資家から高評価を得たりして、業績アップにつながるようになるのです。

各企業が事業戦略を立てる時には、「誰に、どのような価値を、いつ届けるか」が骨子であり、本来は売上や利益などの数字ありきではありません。また、ウェルビーイング経営では「どのような価値を」の部分が重要になります。先ほども触れたように、主観的幸福につながるお金以外の価値を、人々に届ける必要があるからです。

ウェルビーイング経営を考える上で参考にすべきことの一つに、社会的な意義がある事業に投資する「インパクト投資」が挙げられます。社会インパクトの評価方法の一つとして考えられているロジックモデルは、事業が最終的に社会へ与える影響を測るもので、「風が吹けば桶屋が儲かる」のことわざのように、そのサービスやプロダクトが社会に出たことで生じる様々な事象の因果関係を追っていけば、社会への影響を総合的に算出できる、という考え方で成り立っています。

例えば、保育園の業務改善システムを導入すると、保育士の勤務記録を付ける時間の削減につながり、より子どもと接する時間が増えたことで、子どもが保育園で落ち着いて過ごせるようになり、それと同様に家でも安心して過ごせるようになる…といったロジックになります。つまり、自社のサービスが社会にどんなウェルビーイングをもたらすのか、一連のストーリーを描いているのです。

このインパクト投資の手法は、ウェルビーイング経営にも応用できます。サービスが最終的なウェルビーイングを実現するまでの間に起きることを、数値で計測できるようになると、「今はまだ財務インパクトが出ていなくても、この活動は確実に良いことだ」と社内で共有できるのです。社会活動になかなか踏み出せない企業は、インパクト投資の手法を用いて、対外的に示せる形でウェルビーイング活動を事業戦略に加えるとよいでしょう。

こうしたウェルビーイングの客観的指標を企業が求める理由は、経営者の思考がどのフェーズにあるかによって大きく2つに分けられます。まずウェルビーイング経営に取り組む意義に懐疑的な企業には、社会貢献と利益の関連性があることを理解するためのツールとして必要になります。また、ESG(環境・社会・企業統治)対応がすでに浸透している企業は、社会への貢献度を企業間で比べるために、主観的な幸福度を数値化できる指標を求めます。

どちらのケースでも、ウェルビーイングの「GDW」が有効な指標になる、出番になると考えています。こうしたウェルビーイングの考え方を、イニシアチブに参加している企業の皆様と共に知恵を絞り、広めていきたいと思っています。

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