Well-being有識者インタビューVol.28

ウェルビーイングな社会や企業を作るには、個人のウェルビーイング向上がカギになる。米ゼネラル・エレクトリック(GE)の日本法人やユニリーバ・ジャパンで様々な人事施策を担ってきたYeeY 代表の島田由香氏が関心を抱くのも、個人の幸福感や働きがいだ。個人に焦点を当て統計学や脳科学によって理論構築する学問「ポジティブ心理学」をベースにした取り組みについて話を聞いた。

写真:島田由香氏

YeeY 共同創業者/代表取締役 島田由香 氏

日本GEにて人事マネジャーを経験し、2008年ユニリーバ・ジャパン入社。14年より取締役人事総務本部長に就任。人のモチベーションに着目し「WAA」など独自の人事施策を多数実行、同社はForbes WOMENAWARDを3年連続受賞した。17年にYeeYを共同創業し代表取締役に就任。

一心不乱に梅収穫し没入感 現場重視でウェルビーイング向上

手掛けているものの一つに和歌山県みなべ町の「梅収穫ワーケーション(梅ワー)」があります。始めたきっかけは偶然でした。日本一の梅の産地であるみなべ町は世界農業遺産認定地域になっていますが、2年ほど前に梅農家さんの収穫時の人手不足が深刻だという話を聞きました。梅収穫とワーケーションの組み合わせは、労働力の需給調整のみならず、人や地域のウェルビーイングを高めると予測してプロジェクトを立ち上げました。

この考えの基礎になるのが、米国のマーティン・セリグマン博士が提唱したポジティブ心理学です。ポジティブ心理学にはウェルビーイングが上がる5つの要素として「PERMA」があります。Positive emotion(前向きな感情)、Engagement(没頭・没入感)、Relationship(関係性)、Meaning(意味・意義)、Accomplishment(達成・成長)の頭文字を取った造語で、1つが高まるごとにウェルビーイングが上がり、5つすべて揃うと最良の状態になります。

「梅ワー」では、梅収穫を半日、残りの時間で仕事をするスタイルを推奨しています。梅収穫は落ちた梅をひたすら拾い続ける作業ですが、これをするとE(没頭・没入感)が高まり、集中を超えたフロー状態になって時間の感覚がなくなります。一つのことに没頭する時間を持つと脳はものすごく活性化します。また自然の中で梅の良い香りを嗅ぎながら作業することでP(前向きな感情)も生まれます。さらに農家さんとのつながりでR(関係性)が上がり、人手不足や高齢化など地域の課題解決に貢献できて感謝もされ、M(意味・意義)やA(達成・成長)も高まる。結果的に5つの要素すべてが満たされてウェルビーイングになるというロジックです。

前職のユニリーバ・ジャパンでは、原則いつでもどこでも働いてもよい制度「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」を導入し、自分の知恵や経験、労働力など何かしら地域に貢献しながら働くことを推奨しました。私には元々、ウェルビーイングは体感することが大事だという考えがあり、薪割りや草取りなどから多くを学んだ経験があったというのが理由の一つです。 今は、地域を活性するリーダーを育てる研修事業として「TUNAGUプロジェクト」や、島根県海士町の「SHIMA-NAGASHI」プログラムに関わっています。

4月からは武蔵野大学ウェルビーイング学部で人材育成にも関わります。ここでは座学よりも外で体験する授業を中心に考えています。社会に出る前の若い人材が、自分のウェルビーイングを自己責任で捉え、それを高めていく手助けをしていきたいと思っています。

経営とウェルビーイングは強い相関があります。組織は人の集まりですからウェルビーイングが高い人が増えれば業績は上がります。しかし、組織では自己を抑制して周囲の雰囲気に合わせるなど、本心とは異なる行動を余儀なくされることもしばしばあります。「自分がこう言ったら外されるかも」と不安になる気持ちはわかりますが、本心を見せると賛同する人は必ずいるものです。リーダーや管理職が本気を出すと、より早く進むでしょう。