Well-being有識者インタビューVol.33

ISO(国際標準化機構)はウェルビーイングに絡む標準をISO25554として定めた。日本の発案で議論がスタートし、採択までの過程でも日本の存在感が目立った。ISOでのウェルビーイング国際標準化の国際議長として、話し合いに臨んだ産業技術総合研究所の佐藤洋氏に標準化の意義や内容、今後の展望を聞いた。

写真:佐藤洋氏

産業技術総合研究所 情報・人間工学領域副領域長 佐藤洋 氏

東北大学で建築環境工学を専攻。同大講師を経て2001年カナダ国立研究機構に留学。04年産業技術総合研究所に入所。人間福祉医工学研究部門で高齢者・障害者のためのアクセシブルデザインの研究や標準化活動に携わる。23年より研究戦略企画部次長、情報・人間工学領域副領域長。この間ISOで複数の技術委員会委員を務め国際標準づくりに関与。

ISOでウェルビーイング標準化 日本主導で議論し採択

そもそも標準化にはどのようなメリットがあるのかとよく聞かれます。例えば、企業などが単に「ウェルビーイング経営をしています」と言っても、多くの人からの信用を得ることは難しいでしょう。そこで、ウェルビーイングを促進していくフレームワークの標準を定めたのです。具体的には「目的とすべき成果を定める」「成果を評価する」「評価するために指標を決めて測定する」「改善策を議論する」といったサイクルの必要性を決めました。つまりウェルビーイングをマネジメントしたり維持したりするためには何が必要かという観点で標準を考えたわけです。一方で、「ウェルビーイングとは何か」と問われれば、人それぞれの考えは異なるため、今回の標準では定義については敢えて定めていません。

ウェルビーイング標準化は2021年から日本主導で議論を開始しました。ISOの中の高齢社会技術委員会に専門のワーキンググループを設けて議論しました。最終原案の投票が10月に終了し、賛成25カ国、反対1カ国で可決されISO25554として11月12日に発効しました。日本がなぜ標準化を発案し議論をリードできたかというと、議論の舞台が高齢社会技術委員会だったこともあり、「超高齢社会の日本の視点は有益」という雰囲気があったからかもしれません。日本は幸せな国ランキングでは必ずしも好位置にはいませんが、一定程度いい国と認められているのではないかと思います。さらに、日本にはもともと経済産業省が主導してきた健康経営の認定スキームがあり、これをISO 標準の中に組み込めないかという思惑があったわけです。ただ、現時点では健康経営のエッセンスがISO標準に盛り込まれただけなので、認証制度化は将来の課題です。

ISOで議論を始めるに際し、まず職域での労働安全衛生にかかわる分野は明確に除外しました。これは、労働安全衛生では既に別のISO標準が存在しているためです。前述したように、今回決めたのはPDCAサイクルのような「枠組み」だけです。企業や地域が自分たちで達成したいと思うウェルビーイングの目標を定め、それをどう実現するのか、どう評価するのかを考えサービスや商品をデザインする。そしてその性能や満足度を評価した結果をもとに改善策を練るというサイクルです。つまり「何がウェルビーイングなのか」といった要素部分は決めていないので、自らが決めるというプロセスもこの「枠組み」には含まれています。要素にかかわる議論は初回会議で参加者が様々なことを述べましたが、標準文書本体には記載されていません。こうした要素の規定は運用する主体で決めていくことをコンセプトとしていますが、例示やある程度の規範が必要かもしれないので、そのあたりは今後の課題です。

今後ISO25554の認知度が向上し、「この分野のウェルビーイング測定にはこの指標を用いて測定・評価する」といった詳細が順次定められ、関心領域が同じ企業や団体のコミュニティーが生まれるかもしれません。当初は各企業が自社で指標を定めて、評価する自己認証の形で広がり、将来、第三者の認証機関が客観認証を与えるようになれば取り組みが広がっていくと期待しています。

多様性が尊重される時代にウェルビーイングという考え方のエントロピーは増大する一方です。だからこそ、「皆で取り組もう、取り組んでいる企業や個人はこの基準に従っているよ」という皆が使いやすい標準を作ったわけです。