Well-being有識者インタビューVol.34

企業が人を軸にした「人的資本経営」に舵を切り、物質的な豊かさだけでなく、実感としての豊かさ(ウェルビーイング)を重視し始めている。一方で、将来に対する漠然とした不安を抱く将来世代が増えているのも気がかりだ。企業で人事・採用に携わった後に教育界に転身した実践女子大学教授の深澤晶久氏は、ウェルビーイングという概念は若者が将来に希望や夢を抱く際のカギになると話す。深澤氏が取り組む実践女子大のウェルビーイング・プロジェクトについて話を聞いた。

写真:深澤晶久氏

実践女子大学 文学部国文学科 教授/学長補佐/社会連携推進室長 深澤晶久 氏

1957年東京生まれ。80年慶應義塾大学卒、資生堂に入社。営業・マーケティング部門を経て人事部人材開発室長を務める。2014年から実践女子大に勤務。現在は、文学部国文学科教授・学長補佐、社会連携推進室長を兼務し、全学のキャリア教育を担当。慶應大体育会野球部OB会「三田倶楽部」会長、東京六大学野球連盟評議員も務める。

大学で夢と希望につながる学び 22世紀をつくる世代に提供

本学は社会連携とグローバルの2本柱で教育を進めており、私が目指すキャリア教育のコンセプトは「まなぶことと、はたらくことをつなぐこと」です。大学は正課の科目を学ぶことが基本ですが、社会変化が激しい中では学外(社会)へと視野を広げることも重要です。私には学生に少しでも多くの経験・体験をさせてあげることが、社会で生き抜くたくましさを身につける最良の道だという思いがありました。そのため、2014年から他大学の学生も交え、五輪でのボランティア活動などをおこなう「東京2020 オリンピックパラリンピックプロジェクト」を始めました。さらにその後継として21年から「JWP(実践ウェルビーイング・プロジェクト)」をスタートさせました。

JWPではまず、学生たちと「ウェルビーイングとは何か」を考えることから始めましたが、続けるうちにキャリア教育の究極のゴールは学生一人ひとりのウェルビーイングに寄り添うことだと思うようになりました。初年度は20人でスタートし、24年度には参加者が60人まで増えました。授業やゼミと違い単位認定されるわけでもないのに、学生たちは自らの意思で参加しています。参加者の学年や学部も様々です。月1~2回のプログラムを開催していますが、アカデミックな面だけでなく企業やスポーツ、海外から学ぶなどテーマは多岐にわたっています。24年度は9本のプログラムを設定し、延べ240人が参加しました。例えば10月には味の素の研修センターで企業のウェルビーイングを学ぶワークショップを開きました。私は時折アドバイスしたり自身の人脈を使いゲストを紹介したりするだけで、プログラムの内容や運営方法は学生たちが自主的に決めています。

私は前職の資生堂では採用の仕事に携わっていましたが、最近の就職活動を見ると、「本当にこのままでいいのか」と疑問を感じます。企業も学生もお互いが形式的なよそ行きの姿しか見せない採用活動で道が決まってしまうのではなく、学生はもっと社会や企業を知る機会を持ち、企業も大学に足を運ぶことが必要だと思います。企業と大学が同じ土俵で交流できるテーマの一つとして、ウェルビーイングに着目したわけです。

今の時代は、将来に漠然とした不安を抱く若者が多いという調査結果があります。しかし、JWPに参加している学生たちと接していると、活動を通じて主体性が養われ、将来への夢を熱心に語るようになっています。身近なところにウェルビーイングの芽は数多く存在しています。それに気づき、周りの人も巻き込んでいくことが重要でしょう。周囲の人たちがウェルビーイングを実感できれば、それがまた自分にも返ってきます。

慶應義塾体育会野球部OB会の会長も務めていて、慶大の野球部員ともしばしば会います。人生100年時代の到来は確実で、今の大学生たちは22世紀の姿を見ることができる世代です。彼ら彼女らがつくりあげていく22世紀が、ウェルビーイングを実感できる世界であって欲しいと願っています。