Well-being有識者インタビューVol.36

人々がウェルビーイングな人生を送るには、暮らしやすい街づくりが重要だ。一般社団法人スマートシティ・インスティテュート(SCI-Japan)は、地域幸福度(Liveable Well-Being City:以下LWC)指標を開発し、国や自治体と連携して人間中心の街づくりを目指している。南雲岳彦 SCI-Japan 代表理事に、指標をつくった背景や指標の特徴、普及活動について話を聞いた。

写真:南雲岳彦氏

般社団法人スマートシティ・インスティテュート代表理事 南雲岳彦 氏

デジタル庁田園都市Well-Being指標委員会委員、UN-Habitat Global QoL Initiative Assurance Panelメンバーの他、東京都、横浜市、鎌倉市、渋谷区、浜松市、会津若松市等の政策参与・アドバイザー、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授およびシステムデザイン・マネジメント研究科特任教授、京都大学経営管理大学院客員教授等を務める。

幸福度を自治体単位で可視化 ウェルビーイングな街づくり推進

スマートシティ実現に向けて過去10年ほど取り組んできました。その結果見えてきたのは、市民が望むものは先端テクノロジー自体ではなく、テクノロジーがもたらす効果としての暮らしやすさや幸福感の向上だということです。技術至上主義のスマートシティ構想は成功しません。ならば、スマートシティによって人々のウェルビーイングがどの程度向上したかを可視化する指標が必要だという結論に達したわけです。これがLWC指標を開発した背景です。2018年に豪メルボルン工科大学と交流する機会があり、彼らが暮らしやすさを測る指標を既に開発していたのも刺激になりました。

それ以降、SCI-Japanの指標開発が加速したのですが、諸外国を模倣したのではありません。メルボルン工科大の指標は客観的指標しかありませんでしたが、我々は各種アンケート調査による主観的指標を組み合わせました。日本全体で年間約10万人を対象にアンケートを実施、「最良の生活」を10、「最悪の生活」を0とする「キャントリルの階梯」という尺度で個人の主観的幸福度を聞いています。協調や穏健さを重視する日本人の心理特性に配慮し、「周囲の人がどの程度幸せそうに見えますか」といった質問も加えました。

1741の基礎自治体単位で指標化したのも特徴です。ウェルビーイング関連指標は世界に様々ありますが、大半は国単位です。国単位だと身の回りの生活実感と乖離してしまう懸念があるため、LWC指標では基礎自治体単位でデータを把握できるようにしました。LWC指標は岸田政権のデジタル田園都市国家構想で交付金を受ける条件の一つに採用されていましたが、最近は交付金の有無に関わらず150以上の自治体がLWC指標を使っています。市民のウェルビーイングを測定する指標として定着したのだと思います。

指標を使いデータ分析をすると、意外な発見もありました。例えば日本は世界有数の長寿国ですが、かといって健康寿命と幸福度に相関が見られなかったのです。長生きしても、生きがいや夢、人とのつながりがない状態では人は幸せを感じられないことがはっきりしたのです。この結果、健康増進と並行して文化活動にも注力する自治体の政策に根拠が与えられます。

普及活動も加速しています。ウェビナー開催などに加え、2024年秋からは「Well-Being指標活用ファシリテーター」の育成も始まり、現在103人がワークショップなどを支援しています。6カ月かけて基礎からLWC指標の活用法をじっくり学ぶOASIS研修も行っており、研修の最終回は首長への政策提言を行います。既に約40の自治体で研修を実施しました。

アカデミズム分野でも動きが出ており、京都大学の公共政策大学院と経営管理大学院では正式なコースが動き始め、山口大学に新設された「ひと・まち未来共創学環」でも1年生の必修科目にウェルビーイングが組み込まれLWC指標を活用しています。海外の関心も高く、サウジアラビアのメディナ市とは指標活用を含めたスマートシティ分野で提携しました。世界有数の幸福な国と言われるフィンランドのタンペレ市からは、ノウハウを学ばせてほしいとの要請を受けました。今後、世界でのLWC指標の普及を期待しています。