Well-being有識者インタビューVol.37

早稲田大学スポーツ科学学術院教授の佐藤晋太郎氏はスポーツ観戦とウェルビーイングの関係に着目した研究をおこなっている。オリンピックやサッカーW杯に熱狂する人々をみれば、スポーツ観戦と幸福感に何らかの関係があることは想像できるが、それを科学的合理性に基づいて説明する試みは少なかった。社会科学的手法と神経生理学的手法を融合する世界でも珍しいアプローチの研究成果を聞いた。

写真:佐藤晋太郎氏

早稲田大学スポーツ科学学術院教授 佐藤晋太郎 氏

早稲田大学スポーツ科学学術院教授。Sport & Entertainment Management Lab.主宰。フロリダ大学博士課程修了(Ph.D.)。スポーツとエンターテインメントの力を活用した世の中の様々な課題解決をライフワークとしている。

試合見ると脳が活性化 幸福感に寄与する可能性

スポーツをすることが心身に良いとはわかっていても、つい億劫になるのが人間です。自らスポーツをしなくてもウェルビーイングを実感できることは何かないのかと考え、スポーツ観戦とウェルビーイングに関する研究を始めました。私たちが実施した研究は主に3つです。まずスポーツ庁が2万人の日本人を対象に行った2019 年のスポーツ実施状況などに関するアンケート調査の分析です。その結果、現地観戦とネットやテレビでの観戦のどちらも、生活の充足感と有意な正の関連があることがわかりました。

2つ目は人気のあるスポーツと相対的に人気のないスポーツを比較した調査です。スポーツ庁が出している人気度ランキングを使い、上位の野球・サッカーと、下位のテニスなどの映像を被験者に見てもらい、視聴後の気持ちの変化をアンケート形式で測定した結果、人気スポーツを観戦する方がウェルビーイング度向上につながることがわかりました。

さらに磁気共鳴画像装置(MRI)を使っていくつかのスポーツの視聴時の脳活動を調べました。MRI 実験は日本人の大学生を被験者にしましたが、好きなチームや選手、勝敗が影響しないように試合の勝敗は見せず、身近でない外国の試合を見せてチームや選手名が特定できない動画を編集し、スポンサーのロゴなどにはモザイクをかけました。スポーツ観戦の純粋な効果を測定するためです。人気度が高いスポーツを見たときの方が、脳領域の「報酬系」が活性化することがわかりました。MRIで見られた生体反応だけでは、明確に幸福感が高まったとは結論づけられないかもしれませんが、「楽しい」とか「面白そう」といった感情が表れているとは考えられます。「面白そう」という感情が認知まで落ちてきた時に、人は充実感や幸福感を得られるのではないでしょうか。

またスポーツ観戦は頻度が多い方が幸福感を得やすいというエビデンスも出始めています。スタジアムで時々観戦するよりも、ネットやテレビで頻繁にスポーツ観戦した方がウェルビーイング度は上がるのかもしれません。ただし、頻度が多すぎて生活がスポーツ観戦に支配されるようになってしまうと、例えば応援しているチームが試合に負けた時の失望が幸福感に悪影響を与える恐れもあります。最悪、フーリガンの暴力沙汰にもつながりかねません。

このように主観的アンケート調査と脳の血流反応という生理学的手法を組み合わせて、適切なスポーツ観戦が人々のウェルビーイングに寄与するメカニズムを探り、スポーツ観戦の効用を社会に示していきたいと考えています。カナダや英国では、スポーツ観戦を活用した社会活性化の取り組みも始まっていて、例えば精神的に少し疲れている人にスポーツ観戦チケットを配布するサービスもあるようです。スポーツやアートは生活に必須なコンテンツではないかもしれませんが、うまく活用すれば人々の感情を刺激する一種のカンフル剤になり社会に高揚感をもたらし、ウェルビーイングな社会の実現につながるのではないでしょうか。