Well-being有識者インタビューVol.38

心身に障害のある人々のウェルビーイングに関して語られることはまだ少ない。食品トレー大手エフピコは長年、特例子会社エフピコダックスを中心に多くの障害者を事業に不可欠な戦力として一般就労により雇用してきた。岩井久美エフピコダックス社長は「新しいことに挑み、役に立ちたいという思いは障害者も健常者も同じ」と語り、その思いに応える取り組みを地道に続けてきた。

写真:岩井久美氏

エフピコダックス株式会社代表取締役社長 岩井久美 氏

2021年エフピコダックス株式会社 代表取締役社長に就任。近年では官民連携による農福連携プロジェクトの推進や、障害者同士の交流を促す「障⇔障継承プログラム」の構築などその活動の幅を広げている。

守られる存在から必要な人材へ 障害者同士のノウハウ継承も実現

日本には障害者手帳を持つ人が約1160万人いて国民の9%以上に相当します。これに発達障害など手帳を持っていない人を加えると、最大15%程度の人々が何らかの生きづらさを抱えています。障害者はもはやマイノリティーな存在ではないのです。エフピコグループでは知的障害を中心に約400人の障害者を雇用しています。当社は外部企業55 社と提携し障害者雇用のノウハウを提供していますが、提携先も加えると1170人超の障害者が働いています。

障害者の多くは今なお福祉の世界で守られています。特別支援学校を卒業した人の7割弱が就労系福祉サービスを利用しています。しかしながら就労系福祉サービス利用者の約4割を占める非雇用型のB型事業所では平均月額工賃は約2万3000円です。福祉はもちろん大切ですが、この現状で果たして障害者たちは経済的に自立し仕事を通じてウェルビーイングを実感できるでしょうか。

当社が雇用する障害者の約7割は重度知的障害者ですが、役職制度も設けています。主任などに昇進すれば昇給もします。昨年初めて勤続38年で60歳まで勤め上げた障害者が定年退職したのですが、退職金も支給しました。日本は2030年に約700万人の労働力が不足すると言われているのですから、可能性のある方を全力で人財化することは企業として当然のことです。

「重度知的障害の人がそんなに働けるの?」という質問をしばしば受けます。私の答えは「できます」です。ある事例をお話ししましょう。エフピコグループでは回収した食品トレーを再生利用するのですが、まず初めにトレーを仕分けます。ある時、この作業に従事している知的障害者が、気分が乗らないとダラダラと仕事をしていました。そこで、通常時とその時の様子を両方動画で撮影、工場長と本人とでそれを見ました。こうすれば本人も客観的に作業スピードがいつもより遅いことに気付けます。さらに通常時と遅い時の仕分け枚数の差を一緒に数えました。そして、再生工程の工場に連れて行き、最終的にその差がどの程度の損失につながるのか説明しました。目で見せて丁寧に伝えれば自分の仕事がいかに重要かを理解し、きちんと仕事をするようになります。

当社で働く障害者たちはしばしば、「もっと新しい作業をしてみたい。役にたちたい」と口にします。障害者を戦力化する魔法のような秘訣などありません。ただ、会社としてやってほしいことをやってもらうよう諦めずに何度も試みるだけです。そして、やり方をきめ細かく説明します。できるようになり、必要とされていることを実感し、評価されて給料がもらえれば仕事を頑張り続けられます。

最近では「障⇔障継承プログラム」という取り組みも始めています。先輩障害者が働く姿勢やノウハウを、働ける可能性をまだ知らない若い障害者や親、福祉関係者に伝えます。教える側も教えられる側も、ともに働きがいを感じられればと願っています。この取り組みを広げるため、複数の外部企業とも連携を進めています。企業に必要とされて働き、給与を得て生活をし、賞与や退職金が支払われるという当たり前の環境が整えば、親なきあとの将来を心配する親の安心感にもつながります。