Well-being有識者インタビューVol.39

スマートフォンなどのデジタル機器は、うまく使えば仕事や学習の効率が上がり、仲間とのコミュニケーションにも役立つ。しかし、最近は常時スマホが手放せず、睡眠時間を削ってSNSやオンラインゲームに没頭する依存症の人が増えている。一般社団法人日本デジタルウェルビーイング協会の代表理事を務める森山沙耶氏に、身体的、社会的、心理的に良好なバランスを保ちながらデジタルと付き合うデジタルウェルビーイングの概念について聞いた。

写真:森山沙耶氏

日本デジタルウェルビーイング協会(JDWA)代表理事・公認心理師 森山沙耶 氏

家庭裁判所調査官や病院・福祉施設での心理臨床を経て、19年からネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-iにてカウンセリングや予防啓発等を行う。23年からJDWA代表理事。著書に『専門家が親に教える子どものネット・ゲーム依存問題解決ガイド』

将来を思い描く力が依存を予防 AIとの付き合い方は重要課題

子どもの娯楽目的のインターネット利用時間は年々長くなり、1日4時間以上使う割合は約3割といわれています。中高生のネット依存の割合は2016 年の調査で7.9%でしたが、現在はさらに増えていることが予想されます。私が日本デジタルウェルビーイング協会とは別に立ち上げた事業「ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i」ではカウンセリングをしていますが、最も相談が多いのは睡眠障害です。ゲーム依存の子どもたちは大人の熟練ゲーマーと対戦でき、親の目が届きにくい深夜にゲームをしたがる傾向があります。その結果、睡眠のリズムが崩れ、さらに依存が深まるとゲーム以外のことに関心がなくなり、食事も取らず外出もしなくなります。他者と比較して自信をなくしたり、勉強が手につかなくなったりと様々な問題が生じます。

また本人だけでなく、親のメンタルにも影響が生じます。例えば子どもの依存度はそれほど重症ではないのに、母親が「学業の成績が落ちるのでは」と過度な不安を抱き、心身に変調をきたすケースもあります。これだけデジタル機器が普及している時代に、まったくスマホに触るなというのは無理です。少し楽観的に見守りつつ、問題が起きそうな兆候が出てくれば、事態が深刻化する前にカウンセリングなどの支援を受けてほしいと思います。

成人ではリモートワークをしている人からの相談が増えています。周囲に人目がない状況で、抑制がきかなくなりデジタル依存が悪化するケースもあるようです。デジタルテクノロジーを効率的に使うか依存に陥るかの分かれ目は、目的を持って能動的に利用しているかどうかです。ネットを使うことで生活がより豊かになり幸福感を得られる、いわゆるウェルビーイングな状態であればいいのですが、何の目的もなく退屈しのぎで常にスマホを見ている状態は幸せとは言えません。ここが見極めのポイントだと思います。孤独感の回避のため刹那的にSNSなどで誰かとつながり、しかもそのグループから排除されるのではという不安にさいなまれるような心理状態に陥れば、それはデジタルウェルビーイングの対極です。このような場合はカウンセラーの受診や、場合によっては心療内科や精神科など医療的ケアを受ける必要もあります。

デジタル依存に対しては予防も重要です。その際のキーワードはセルフコントロール力です。子どもの頃は誰もが多かれ少なかれ、目の前に好きなものがあったらすぐにそれを欲しがる傾向があります。しかし最近は、大人になっても自分にとって価値あることを得るために長期的な視点で一歩ずつ努力することが苦手な人が増えている気がします。幼児期からルールをしっかり守る大切さを教えることも必要でしょう。

今はAI(人工知能)の行方に注目しています。既に「AI依存」という言葉も出始めました。AI への相談を繰り返す過程でメンタルヘルスが悪化してしまったといったケースも報告されています。そのうちAIに相談したら自殺を勧められたといったケースも出てくるのではと心配しています。AIとのより良い付き合い方については、重要な研究テーマだと思っています。